上杉周作

点と点がつながると信じてたバカへ。元アップルのインターンが、ジョブズ引退の日に思ったこと。

まえがき (2015年10月7日)

この記事は2011年8月、ぼくが23歳だったときにTumblrに書いた、生まれてはじめて「バズった」ブログ記事です。スティーブ・ジョブズが亡くなる数ヶ月前、彼がアップルの社長を引退した日の夜に書きました。

ネットからはずっと消していたのですが、スティーブ・ジョブズが亡くなって4年経ったいま、ひさびさに再掲することにしました。

これまで。

もちろん大学にいた頃は、先を見据えて点と点をつなぐことは不可能でした。しかしそれは、10年後に振り返ってみると非常にはっきりと分かります。もう一度言います。あなた方は先を見て点と点をつなぐことは出来ないけれども、過去を振り返るとそれらをつなげることが出来るのです。だからあなた方は、将来点同士が何らかの形でつながることを信じなければなりません。-Steve Jobs

いまから6年前。アメリカの高校3年生で、大学も決まってなかった僕は、スタンフォード大学で行われた彼のスピーチが大好きだった。

高校生になったのび太くんだった。運動はからっきし苦手で、成績もそこそこで特技も無く、睡眠時間より長い間2ちゃんを読んでた。何よりも友達が少なかった。なんとかしなきゃと思ってたとき、ドラえもんの代わりにStay Hungry, Stay Foolishという言葉がやって来た。

ジョブズが経験しなかった大学の四年間で、僕はなんとかした。無意味だと思えるようなことに興味本位で手を出しては、「点」をそっと置いていた。

大学がはじまる前の夏休み。アメリカでちょうど流行り始めたFacebookに、半信半疑でかじりついた。自分と同じComputer Science専攻の新入生に片っ端から友達リクエストを送り、しまいには全員集めたFacebookグループを運営することになった。2006年のワールドカップで友達が騒いでいるのを横目に、一年生が受講できる授業の内容と教授の良し悪しを研究して、Facebook上で授業選択のアドバイザー業をはじめた。大学が始まる頃には、「みんなが知ってるアイツ」に慣れないままなっていた。

大学一年生。リア充になりたい思いから、理系が一人もいないリア充だらけのビジネス系のサークルに入り、場違いながらもビジネス・ファッションショーの執行部員になった。当時受講してた数学のクラスの教授が元サーファーのイケメンだったので、彼にモデルを頼んだ。最終的には断られたのだけど、顔を覚えてもらった。

二学期になったら、彼が教えてたグラフ理論のクラスになりゆきで入ることになってしまった。見渡すと数学専攻の三年生四年生ばかり。数学は苦手で、高校時代には背理法すらも知らなかった。でも彼に励まされて、死に物狂いで頑張って、トップクラスの成績を収めた。

大学二年生。malloc()を一から書いたりするような面白いクラスが取れるようになって、みんながプログラミングに夢中になってる時に、あえて就活に明け暮れた。コードよりも、履歴書を書くのが面白かったから。最初はうまくいかなかった。生まれてはじめてのプログラミングのバイトはクビになり、夏のインターンの就活も20社くらいからお祈りメールをもらい、テストの点も自己最低点を更新した。友達には勉強しないからだと笑われた。でも徐々に面接のコツをつかんで、一番最後に受けたアップルに六回の電話面接のあと拾ってもらった。

アップルからは、イノベーションとは、今にない新しいものを作るのではなく、未来にある普通のものを作ることなんだと学んだ。三年前のインターンで作ったものはOS X Lionに導入され、当時の未来の普通のものになった。

大学三年生。興味本位でさっきの数学の恩師の助手になり、火曜と木曜の授業は僕がやることになった。人前で話すことは苦手で、最初にやった授業はひどかった。自分の成績を犠牲にして、昼も夜も講義の練習に励んだ。結果、講義は上達し、生徒に慕われ、卒業式では最優秀Teaching Assistantとして壇上に登ることになった。培った講義のスキルは、慶應SFCで講演をするチャンスと、日本で友達を作るきっかけを与えてくれた。

最後に大学四年生。デザインが楽しそうだったので、プログラミングを諦めて、素人だったデザインを学ぶことにした。Computer Scienceの学部を出た後、デザインのクラスを詰め込んで半年でHuman Computer Interactionの修士号をとった。すぐには役に立たなかったけど、卒業して一年後、Quoraという話題の会社で、エンジニアには実力不足でもデザイナーになることができた。

点と点はいつかつながると信じて、何の役に立たないかもしれないことでも進んでやるようにした。

でも最近になって、考えが少し変わった。というより、彼が本当に言いたかったことが分かるようになった。うまく言語化できなかったけど、今日のニュースを聞いて、はっきりした。

これから。

ジョブズの一番の創作物はアップルの製品ではなく、アップルという会社だ。今日のニュースは、アップルが歩む避けられない一歩なのだ。そしてその一歩を踏み出す決意をしたのも、またジョブズ自身なのだ。-John Gruber

ジョブズは社長を退任した。Mac, iPod, iPhohe, iPadと、彼がまいた点が見事に集約した形で。これからアップルはどうなるんだろう。どれだけの点を残したのだろうか。そしてその点と点は今までのようにつながっていくのだろうか。

そんなアップルに、23歳、将来が見えない自分が重なって、少し考えた。

点と点がつながると信じていた僕は、バカだった。

ジョブズが言ったように大学四年間を振り返ってみると、確かに色んな点がつながったのが見える。だけど中には、「将来つながるかもしれないから」という理由だけで置いてしまった点もあった。

たとえば四年生に受講したCからアセンブリへのコンパイラを書くクラスでは、二人一組でやる決まりだったのに、あえて一人でやることにした。一人でコンパイラを書いた経験が、何らかの形でつながるかもしれないから、という理由だけで。

それは疑問符が残る決断だった。時間と就活に追われ、コンパイラの最適化のコードを書く前にクラスをドロップアウトしてしまい、今でもそれを後悔している。

二人一組だったら単位をとることは難しくなかったのに。今考えてみると、誰かと二人一組でやっても、将来何かにつながる可能性もあっただろう。語り合える仲間がもう一人増えていたかもしれなかった。コンパイラの分野でもっと先にいけたかもしれない。

ほかにも将来つながるかもしれないから、という理由だけで色んなことに手を出してしまい、後悔したことは数えきれない。ジョブズの言葉をいつのまにか通り越して、「先を見て点と点をつなげることはできない」のに、先が見えるかのような錯覚に陥ってしまっていた。

ぶっちゃけ、どの点を置いたとしても、点と点がつながる確率は一定なんだ。

NoSQLの勉強をサボって、ツイッターで誰かと必死に会話してたこともあった。この人と、将来何か関わりがあるかもしれない、と言い訳していた。でもNoSQLをもっと勉強していたら、カンファレンスに出ることができて、そこでかけがえのない出会いが生まれたかもしれなかった。

運命は、コントロールできない。だから、コントロールできるものだけ見ないといけない。

僕達は今ある選択肢の中で、冷静に、自分にとって一番良いものを選ばなければならない。どんな選択肢を選んでも、点と点がつながる可能性は捨てなくていいのだから。点と点がつながるかもしれないから、だけで何かをする理由にしてはいけない。それより深い理由や情熱がなければならない。

アメリカの一流大学は学費も高いが、それよりもっと機会費用が高い。世界最高峰の教授陣と生徒コミュニティーが用意してくれる選択肢はどれも素晴らしい。カーネギー大ではなろうと思えばロボット発明家にも、ディズニーのアーティストにも、ブロードウェイの役者にもなれる学部プログラムがあり、星の数ほどのサークルもある。

だからこそ、間違った選択肢を選んだ場合、失うものも大きい。自分に合った夢を見つけることに投資せず、適当に道を選んでしまった人たちも多い。学費年間500万円を無駄にするばかりか、別の道を選んでいたら得られていた莫大な知識と経験と優位性を失うことになるのだ。それに何度も気づいて、時間は取り戻せないと落ち込んで、立ち上がって、生徒は人生を設計する力を養っていく。アメリカの一流大学とは、そういう場所だ。

今住んでいるシリコンバレーでもそうだ。シリコンバレーでは、人を採用すると決めたら、自分の会社についてできるだけ多くの情報を合格者に伝える。会社の強いところ、弱いところ、将来に期待すること、不安なことなどを、ランチ等を通じて包み隠さず語る。

決して力で勧誘しないのは、優秀な人間にとって、受かった会社それぞれから多くの情報を知ることがいかに大切か、会社側は気づいているから。優秀な人間は複数のオファーから一つの会社を選ぶことになる。点と点が一番つながりそうな会社をフィーリングで選ぶのではなく、自分のスキルや性格に一番あった会社を選ぶことが、その人にとっても会社にとっても最良なのだから。点と点が一番つながりそうな会社かどうかは誰にも分かり得ないことなのだから。

また、こないだY Combinatorのパートナーの方とコーヒーを飲む機会があって、「バブルがはじける前に起業するか、はじけた後に起業するのか、どちらがいいのか?」と聞いてみた。彼は力強く「関係ない」と言い放ち、自分がReadyと思った時に起業するべきだ、と教えてくれた。バブルとか、経済のことは自分ではどうにもならないが、自分の実力は自分がコントロールできるもの。だからそっちに全てフォーカスすべきだ、と。

最後に、シリコンバレーではアイデアに価値はなく、実行のみに価値があると言われる。同じように、どの選択肢を選ぶかよりも、選んだことをどれだけ上手く実行するかが重要なのだ。宝くじは、どんな道を歩んでも買うことになる。当選結果を気にするよりも、買ったことを忘れて励まないといけないんだ。

アップルも同じで、ジョブズが去るまでに色々と将来に向けて点を置いたのだろう。だがそれは、希望と願望「だけ」に満ちた点々ではなくて、ジョブズが戻ってからの14年間の経験をもとに淡々とに置かれた点々に違いない。表面的には見えないところで、深い理由と情熱に溢れた手を打ってくるに違いない。

僕達には、それがつながるか見届ける義務があるけれど、予測する力も権利もない。未来は誰にもわからない。でもそんな未来にある普通のものを、アップルはこれからも作り続けるだろう。

ジョブズに、本当にお疲れ様でした、と伝えたい。そして点と点がつながると信じて他のことをあまり疑わなかったこれまでの僕に、それの一億分の一の「お疲れ様」と、一億倍の「人生そんなに甘くない」を伝えたい。

アップルを産んでくれて、そしてここまで大きくしてくれて、ありがとう。そして自分自身へ、Stay Hungry, Stay Foolish.