上杉周作

くだらない絆

2011年10月、スティーブ・ジョブズ氏の追悼式で、長年彼と二人三脚を続けてきたデザイナー、ジョニー・アイブ氏が行ったスピーチより抜粋します(動画)。すでにいろいろな訳がありますが[1][2]、以下は筆者の訳です。

スティーブは幾度となく、私にこう話しかけてきたものです。

「ジョニー、くだらないアイデアがあるんだが・・・」

時に、それは確かにくだらないアイデアでした。時に、それはとんでもなくひどいアイデアでした。

けれども時に、それは部屋から空気を奪い去って、ふたりとも言葉を失ってしまうようなアイデアでした。

それは大胆で、クレイジーで、壮大なアイデアだったり、繊細でシンプルだけど、わずかな細部に底知れない深さをもったアイデアでした。

アイデアを愛し、創ることを愛したスティーブは、「なにかを創る」という行為に対して、類まれな敬意を払う人でした。

アイデアの中にはいつか、とても大きな力を持ち得るものもある。しかしそんなアイデアでも、はじめの頃はもろく、ほとんど形をなさず、いともたやすく見過ごされたり、妥協されたり、押しつぶされたりしてしまう。

そのことを彼は、おそらく誰よりもよく理解していたのです。

スピーチから五年近くが経った最近になって、これはアイデアと人との関係だけでなく、人と人との関係でも言えるように思えてきました。

誰かと誰かとの関係は、いつかとても強い絆になり得るものもあります。ジョブズ氏とアイブ氏のように。

しかしそんな絆でも、はじめの頃はもろく、ほとんど形をなさず、いともたやすく見過ごされたり、妥協されたり、押しつぶされたりしてしまう。ちょうど一年前、「じつは、ジョブズ氏がアップルに復帰した1997年、ジョブズ氏はアイブ氏をクビにしようとしていた」という事実が報道されました。

いつかとても強い絆になり得る関係も、はじめのころはとても弱い。

そのことを、誰よりもよく理解していたいものです。「誰かとの関係を創る」という行為に、類まれな敬意を払う人になりたいものです。