上杉周作

「ニッポンのジレンマ」元日スペシャルに出たとき、カンペに書かれていたこと

赤坂で焼き鳥を食べていたとき、政府機関で働く友人が言った言葉。

以前こんな話を聞きました。

「毎年日本ではたくさんの社会問題が起こる。しかし日本人は、大晦日に除夜の鐘の音を聞くと、それらを全部忘れてしまう」と。

…まさに言い得て妙ですよね。

NHKにようこそ

NHK・Eテレがやっている、日本の社会問題について語る「ニッポンのジレンマ」という番組がある。年にいちど2時間半の特番が組まれるのだけれど、その放送日は、除夜の鐘つきが終わって、みんなが社会問題とかすっかり忘れてしまった後の「元日夜」11pmだ。タイミング的にまずい気がする。

さらに2016年の「ジレンマ」特番は、出演者的にもまずい。なぜなら何かの間違いで、ぼくが呼ばれてしまったからだ。(他の論客は、みなすばらしい方々である。)

番組のサイトはこちら

番組紹介:

2012年元日「震災の年から希望の年へ」を放送して以来、世代間格差、働き方、この国のカタチなど多様なテーマを多角的に議論してきた「ニッポンのジレンマ」。

18歳選挙権が施行され世界が新たな局面に突入しようとする2016年、テーマとするのは「“競争”と“共生”のジレンマ」だ。

資本主義の原理「自由な“競争”」と民主主義が目指す「平等な“共生”」の両立は、本当に実現されているのか?

年齢制限を1975年以降生まれに変更、新世代の起業家や気鋭の学者らの議論に、 SNSでスタジオ内外から若者たちの声を重ね、ジレンマを乗り越える術を探る。

MC:古市憲寿 (社会学者)、青井実アナウンサー、桑子真帆アナウンサー
論客:安田洋祐 (経済学者)、堀口美奈 (マルチリンガル)、先崎彰容 (日本思想史研究者)、三浦瑠麗 (国際政治学者)、上杉周作 (非リア代表)、佐藤航陽 (メタップス代表)、 浦野 幸 (Nicogory代表)、大澤 聡 (批評家)、蛭間芳樹 (政府系金融機関勤務)、隠岐さや香 (科学技術史研究者)、小池龍之介 (僧侶)


収録は12月中旬、渋谷のNHKスタジオパークで行われたのだが、収録前、気がついたら現実逃避していた。

渋谷のマルキュー(メンズ)での、チャラそうなスタッフとの会話。

チャラ男「何かお探しっすか?」
ぼく「これからテレビの収録があるんですが、着ていく服が無くて…」
チャラ男「テレビ!もしやモデルさんっすか?」
ぼく「え?(歓喜)」
チャラ男「あ、やっぱり違うっすよね!」
ぼく「…(やっぱり?)」

心の中で「チャラ男め、NHKのアナウンサーにクリスマス中止のお知らせをするよう頼んでくるからな!覚えてろ!」と叫びながら、ぼくはイルミネーション溢れる渋谷を駆け抜けNHKに向かった。

カンペに書かれていたこと

テレビ業界などでは「巻きで」は「急いで終わらせてください」という意味。

今回の「ニッポンのジレンマ」では、経済競争・国際情勢・人工知能について議論することになっていた。しかし、ぼくはどれもあまり詳しくない。というか、全く語れることがない。

不安をスタッフの方に打ち明けると、こんな答えが返ってきた。

ぼく「何を喋ればいいのか、正直分からないのですが…」
スタッフ「心配はいりません。収録中、我々が作ってきたカンペを出しますので、その通りに喋っていただければOKです。」
ぼく「わかりました。(なるほど、テレビはヤラセと聞く理由はこれか…)」

実際に収録に入ると、内容盛りだくさんのカンペが、スタッフによって次から次へとめくられた。ぼくはそれを棒読みするだけでよかった。これで出演料を貰えるとか、コメンテーター業も楽なものである。ぼくがアメリカから来たということで、アメリカに関する内容のカンペも多く、NHKにはこんなにアメリカ通の方がいるのか!と感心した。

ぼくは完全に思考停止したまま、6時間に及ぶ収録はあっけなく終わった。だが、ぼくの発言時間が短かったので、せっかく作ってくださったカンペのほとんどは無駄になってしまった。勿体無いので、スタッフに「このカンペ、ぜんぶ持って帰ってもいいですか」と聞いてみた。

スタッフ「いいですよ。でも、我々がカンペを出していることがネットでバレたら炎上して、番組への信頼が失墜してしまいます。だから、絶対にブログにアップしたりしないでくださいね。上杉さんならやりかねませんから。」
ぼく「ぼくを何だと思っているんですか、そんなことは絶対にしませんよ。安心してください。」

そうやって持ち帰ったカンペ集を無断でまとめ、無断で転載したのがこの記事である。よければご覧いただきたい。

ごめんなさい

↑に書いたことはぜんぶ下手な冗談です。もちろんのことながら、番組側が用意したカンペは一切ありませんでした。6時間の収録に付き合ってくれた、200名に及ぶオーディエンスの皆様が証人です。

また、上記のようなスタッフとのやり取りも一切ありませんでした。さらに、ぼくは他の出演者11人全員と初対面で、収録前に少しでも会話ができたのは2人ほどでした。

断言しますが、収録中に「こんなにまとまりがなくて大丈夫か」と不安になるくらい、「ニッポンのジレンマ」のヤラセ要素はゼロでした。

では「カンペに書かれていたこと」と題したこの記事はいわゆる「タイトル詐欺」なのかというと、そうではありません。

収録前に準備していたこと

実はカンペはあったのですが、それはぼくが自作したものでした。

収録の1~2週間前、スタッフの方に「経済競争・国際情勢・人工知能について、アメリカ西海岸の視点から語ってほしいので、上杉さんの考えをまとめておいて下さい」と伝えられたので、Evernoteのノートにアイデアを書き留めていました。

ノートは結構な量になったのですが、内容が多すぎて、仮にすべてをカンペにして収録に持ち込んだとすると、逆に混乱しそうでした。しかし、何もないと不安だったので、ノート全体の1割程の内容を紙に書き、スタッフの許可をもらい、収録中にぼくの席に置いていました。気休め程度ですね。最終的にそのカンペはほとんど使わず、アドリブに頼ったのですが。

そして収録後、ぼくが準備したノート(持ち込んだカンペ分の1割と、残りの9割)を、ブログに公開すべきか否か悩みました。

もし公開したら、「上杉は番組で、あらかじめ用意した発言をしているのか」と疑われるかもしれません。他方で、ぼくの頭の中を晒すことは誰かの役に立つかもしれません。まさに「ジレンマ」ですが、迷った末に公開することにしました。

以下、ぼくが収録前に用意したノートの内容です。ぼくの番組での発言内容とはあまり被らないので、番組を見る前にこれらを読んでもネタバレにはならないと思います。前置きがとても長くなってしまい、ダブルでごめんなさい。

(追記: この前置きを書いたのには明確な意図があります。この記事の最後の『はてなブックマークなどに寄せられた、「この記事の前半部分は読む価値がない」というコメントについて』という項で理由を説明しました。)

アメリカ・シリコンバレーに住み、現地の教育ベンチャーでエンジニアをしているぼくから見た、経済競争・国際情勢・人工知能の論点


経済競争

1 — スタートアップが死ぬ理由は競争に負けたからではない

  • シリコンバレー随一の投資ファンド・Yコンビネーターの創業者である投資家・ポール・グレアムが、数多くの失敗したスタートアップ企業を分析した
  • グレアム氏によると、スタートアップが潰れた理由の多くは、(1)お客様のニーズに答えられなかったか、(2)役員の仲間割れだった。つまり、自滅した会社が多数派で、競合のせいで失敗した会社はほとんど無かった。
  • グレアム氏のツイート: 「競争相手のことを心配しすぎてユーザーのことを考えないベンチャーは、アフリカの伝染病にかかる心配をしながらタバコを吸い続ける人と同じだ。」
  • ぼくもシリコンバレーのスタートアップ何社かで働いたが、創業者同士のトラブルは確かに目にしたことがあり、それゆえぼくはグレアム氏と同意見である。
  • ビジネスの競争が最も激しいとされているシリコンバレーで、「競争相手を見るな」というアドバイスは面白い。

2 — 完全な実力主義社会など存在しない

  • 人材の流動性が高いシリコンバレーは実力主義のイメージが強いが、仮にそうだとすると、次のデータはどう説明すればいいのか。
  • (1)シリコンバレーのトップ企業の管理職は78%が男性、(2)エンジニアは85%が男性、(3)取締役レベルだと89%が男性、(4)CEOレベルだと93%が男性、(5)ベンチャー投資家だと96%が男性。(ソース)
  • 「シリコンバレー = 実力が全ての世界」とするのであれば、このデータからは「男性の実力 > 女性の実力」と結論付けるしかない。だが実際には、シリコンバレーは男社会で(日本ほどではないが)、女性はキャリア面でハンデを負っている。
  • 社会的に恵まれている人たちの中でも、実力主義を宗教のように信じている人たちは、実力の劣る人たちを見て「努力不足だ」と蔑むことはしても、その後ろにある社会の不平等に気付かないことが多い気がする。あくまでぼくの偏見だが。
  • 完全な実力主義社会など存在しないことを、忘れてはいけない。

3 — 失敗に対する社会の態度、三段階

  • ひとが競争を嫌う理由のひとつはやっぱり、負けた(失敗した)ときの機会費用が高いからだと思う。
  • よく日本は失敗を許さない社会だと言うが、ぼくは失敗に対する社会の態度は三段階あると思っている。(1)失敗を許さない社会、(2)失敗をポジティブに評価する社会、(3)失敗がブランクにならない社会である。
  • たとえば、同じ会社に同じくらいの能力のAさんとBさんがいる。Aさんは会社にずっといて、Bさんは起業。3年後、Aさんは取締役に大抜擢、Bさんは失敗して会社に戻ろうとする。(1)会社がBさんを雇わなかったら「失敗を許さない会社」、(2)Bさんを以前と同じか少し上の役職で雇ったら「失敗をポジティブに評価する会社」、(3)Bさんを取締役として雇ったら「失敗がブランクにならない会社」、といえる。
  • 競争を正当化したいなら、(2)の先にある(3)の社会を目指すべきだと思う。
  • ちなみに、ぼくが働いているシリコンバレーのベンチャーでは、3~4人に1人が起業失敗経験者である。みんなぼくより遥かに優秀だ。

4 — ルールを決めている人が飲むロジックを言え

  • 去年の「ジレンマ」元日スペシャルで、国際政治学者の三浦さんが「保守が飲むロジックを主張することが大事。たとえば女性の社会進出は、フェミニズムと結びつけるのではなく、労働力の確保と結びつけるべき」と主張されていた。日本の政治のルールを実質決めているのは中道右派(保守派)の人たちだからだ。
  • 資本主義にそれを当てはめてみる。たとえば格差について文句があるのなら、ルールを決めている資本家が飲むロジックを言うことだ。
  • 「インパクト投資」という言葉がシリコンバレーのベンチャー業界で流行っている。「インパクト」とは「社会的に良いインパクト」という意味なのだが、少し説明する。
  • ベンチャー投資では、投資家が資本家に「◯ドルうちに預けてくれたら、いろんなベンチャーに投資して、5年で2倍にして返しますよ」と言う。一方、インパクト投資家は資本家に、「うちに預けてくれたら、5年で1.5倍にしかなりませんが、投資先は教育を良くしようと頑張っているベンチャーのみに限定します」と言う。
  • もしぼくが大金持ちだったら、普通の投資家よりも、インパクト投資家にお金を預けたいと思う。現に、ぼくが働いている教育ベンチャーは、一部の資金をインパクト投資家(Reach Capitalなど)から調達している。
  • 格差が問題なら、「格差を解決するためのベンチャーをどう作り、そこに資本家のお金を大量に流すにはどうすればいいのか?」と考えるほうが、金持ちにクレームをつけるよりも生産的だと思う。

5 — 「テクノロジー企業が国になる」論について

  • 今年Facebookの1日のログイン数が10億人を突破したりと、「アメリカ発のテクノロジー企業が国より強力な力を持つのでは」「いずれテクノロジー企業が国になるのでは」と論じる人たちも出てきた。
  • 否定はしないが、「テクノロジー企業が国になる」というより、「国の存在が忘れられる」というほうが近いとぼくは思う。
  • たとえば2012年、東南アジアの人々に「インターネットを使っていますか?」「Facebookを使っていますか?」とアンケートを取ったところ、「Facebookユーザーだが、インターネットユーザーではない」という人が多かった。つまり、東南アジアの一部では「Facebookはインターネットのサイト」とは認識されていない。
  • 同じように、いつかは「私はFacebookの住民だが、どの国の住民でもない」というアンケート結果が出る日が来るかもしれない。
  • 最後に忘れてはならないのが、企業の運営モデルは「独裁」「株主至上主義」であり、それは先進国よりも途上国の統治モデルに近いということである。

6 — 再分配論で中間層は後回しになるのか?

  • ぼくは教育xITを促進するベンチャーで働いているが(参考)、アメリカの学校現場でITの利用が進んでいるのは(1)富裕層向けの私立校と、(2)貧困層向けの実験校だ。中間層向けの学校ではIT化への危機感が少ない印象がある。
  • 富裕層向けの私立校は高い学費をもとに、最新のITを導入して先鋭的な教育を行う(参考)。金持ちの子は学力が高いので、テクノロジーを最大限に活用して創造的なカリキュラムを組める。
  • アメリカでは教育格差が政治的に大問題なので、貧困層向けの教育補助にも一定の予算が組まれる。貧困層は普通に教えていたら授業についていけないので、ITを駆使して習熟度別の授業を行う。
  • では中間層向けのITを使った教育はどうかというと、富裕層や貧困層向けに比べ、一歩遅れているイメージ。
  • 富裕層が強くなり、再分配をしても中間層が後回しになると、中間層が富裕層に追いつけず、貧困層が中間層に追いつき、三極化 → 二極化が進むかもしれない。それが良い事かどうかは分からない。

7 — ベーシックインカムと技術の発展

  • フィンランドが、全国民へのベーシックインカムを月額800ユーロ(約11万円)支給する検討を始めて話題になった。
  • ぼくはベーシックインカム論者ではないけれど、技術の発展によってベーシックインカムが必要不可欠になるかもしれない。
  • 例: (1) 技術が発展し、今より大幅に少ない労働力でモノやサービスを生産できるようになる。(2) 多くの人が職を失う。(3) 一方、発展した技術に関わる人材は企業が奪い合い、給料が上がる。 (4) 上がった給料分を賄うため、モノやサービスの価格は安くならない。
  • ↑のような時が来たら、ベーシックインカムを導入せざるを得ないかもしれない。現にシリコンバレーでは、ソフトウェア業界で働く人の給料は、技術者以外でもうなぎのぼりである。そして物価も上昇している。
  • もしアメリカでそんな時代がきたら、「頑張って働けば金持ちになれる」というアメリカンドリームは「夢のまた夢」になる。「のんびりしてれば最低限の暮らしはできる。ただ、頑張って働いても、金持ちにはたぶんなれない」ことが、新しいアメリカンドリームになるかもしれない。

8 — シェアリングエコノミーは競争なのか、それとも共生なのか?その1

  • サンフランシスコでは、民泊サービスのAirBnBが大流行中だが、地域住民と共生できていない。
  • 理由: 持ち家があって、部屋が空いている場合、その部屋をアパートとして長期で貸し出すより、AirBnBで短期旅行者に貸し出すほうが儲かる。すると、街にあるアパートの物件数が減る。すると住宅の供給が減り、家賃が上がり、その家の資産価値も上がる。だから持ち家がある人にとってはAirBnBはウハウハだが、賃貸で暮らしている層にとっては不利益しかない。賃貸物件の供給が極端に低いサンフランシスコではこれが大問題になっている (詳細)。
  • シェアリングエコノミーの代表であるAirBnBが、家を持つ者・持たざる者の分断を広げているのは、「シェア」の聞こえの良さと真逆で面白い。

9 — シェアリングエコノミーは競争なのか、それとも共生なのか?その2

  • サンフランシスコでは、自分の空き時間をシェアしてお金を稼ぐ、いわゆる「召使い」サービスが大流行中。誰でもタクシー運転者になれるUber、外食のテイクアウト代行のDoordash、スーパーの買い物代行のInstacart、犬の散歩代行のWag!、洗濯代行のWashio、何でも代行のTaskRabbitなど。
  • サンフランシスコは「ご主人様と召使いの都」になりつつあり、昔のヨーロッパの封建社会に向かって時間が逆行しているようで滑稽である。
  • 俯瞰して見ると、エリート志向のテクノロジー企業で働く「金はあるが時間がない」人たちが、同じように「金はあるが時間がない」人たち向けにサービスを作っているように思える。そのために、「金はないが時間がある」ひとたちを召使いとして使っている。
  • 問題なのは、金持ちは召使いサービスを使えば時間の余裕はできるが、実際に召使いとして働いている人は得られる賃金が低いため、働けど働けど金に余裕ができない点である。

10 — アメリカでは都市ごとに競争科目が変わる

  • シリコンバレーの競争科目はIT起業だが、ニューヨークならメディアや金融、ロサンゼルスならエンタメ、ワシントンDCなら政治と、アメリカでは都市ごとに競争科目が変わる。
  • 現在Yコンビネーターの代表をしているアルトマン氏は、「IT起業『以外』の分野において、すでに激しい競争が行われている都市で、シリコンバレーのような起業家文化をつくるのはムリだろう」と発言している
  • 地方分権と競争の多様化は表裏一体なのかもしれない。ちなみにぼくは道州制論者で、大前研一さんの影響を受けている。

11 — シリコンバレーのエンジニアの競争は厳しいが、精神を消耗するほど厳しくはない

  • ぼくはシリコンバレーという、世界で最もエンジニアの競争が激しそうな場所でエンジニアをやっている。しかし、以前ブログ記事に書いたが、シリコンバレーのエンジニアの競争は精神を消耗するほど厳しくはない。
  • ぼくなりに理由を考えてみたところ、一番の理由は、欧米圏では家族との時間を大事にする文化が強いからだ。家族持ちのエンジニアはみな早く仕事を切り上げる。
  • そして、家族がいないエンジニアは、友だちとの時間を非常に大切にする。この文化が、エンジニアの競争を健全なものにしていると思う。

12 — ただ、シリコンバレーの受験競争は、精神を消耗するほど厳しいらしい

  • シリコンバレーの中心地にある高校は高学歴の親の子が集まるため、「良い大学に行かなければ」というプレッシャーが強いらしい。
  • シリコンバレーのトップ公立高校2校において、過去10年間の自殺率は、全米平均の4~5倍だった。また、スタンフォード大学の隣にある名門高校では、8人に1人が、過去1年間に「自殺を真剣に考えたことがある」と解答した

13 — しかし、子どもに競争を「避け」させると、助け合うことを「嫌う」ようになる

元ハードルのオリンピックメダリスト・為末氏が、とある教育の研究を引用して書いたブログ記事より

子どもの頃に競争を避け、順位をつけない教育を受けた場合、大人になってから助け合い行動を取らない傾向があるという話をこの間聞いた。とても面白いと思って理由を聞いてみた。

理由は子どもの頃競争をせず順位もつけなかった場合、明らかな差を目にすることが少ないので人間の能力は平等であるという考えを抱きやすいのだという。もし人間の能力が平等であるならば、優秀であるかどうかは努力次第で決まることなので、優秀でない人は努力をしてこなかった人ということになる。だから困っている人を助けない傾向にあるのだという。

14 — 2枚のピザ理論

  • 米AmazonCEOのジェフ・ベゾス氏は、「会社のプロジェクトチームの人数は、2枚のピザで賄えるくらいの人数が望ましい (5~8人)。それ以上だと多すぎてチームワークが破綻する」と発言している
  • 世の中には、あなたが(1)得意で、(2)やりたいと思えて、(3)かつ人の役に立つプロジェクトがたくさんあり、それぞれのプロジェクトにはチームがある。
  • だが、そのプロジェクトチームの殆どは「ピザ2枚分」のように人数の上限が決まっている。スポーツでも、音楽でも、お笑いでも、宇宙飛行士でも理屈は同じである。今回出演した「ジレンマ」も、「論客は12人」という上限があった。
  • 人数の上限があるということは、そのチームに入るための競争が存在するということだ。競争を避けるには、人集めに苦労しているチームを見つけるか、新しいチームを立ち上げるしかない。
  • ぼくは教育に関わっているけれど、教育の目的の一つは、学習者が入りたいチームを見つけられるよう導くこと、そして望んだチームに入る力を育むことだと思っている。
  • それには競争に勝つ力も必要だし、見つけにくいチームを見つける力も必要だし、新しいチームを立ち上げる力も必要だ。

国際情勢

15 — 子どもの声を聞こう

今回の「ジレンマ」では2015年に起きたパリのテロについて語る予定だったのだが、ぼくはあまり国際情勢に詳しくない。9/11のテロのときにワシントンDCに住んでいたり、半年前にパリでカンファレンスに参加したときにテロがあった地区を歩いていたから、ニュースに現実味はあったけれど。

そんな中で、教育業界に関わっているぼくが唯一何か言えるとしたら、「子どものを声を聞いてみてはどうか」ということだ。

イスラム関連で言うと、2015年9月。米テキサス州に住む14歳のイスラム教徒の少年・アーメド君が、自作のデジタル時計を高校に持って行ったところ、爆弾と勘違いされて逮捕される事件が起きた。逮捕されたときの彼はNASAのTシャツを着ていた。

この件は「イスラム差別だ」とネットで炎上し、オバマ大統領は「ホワイトハウスにそのクールな時計を持ってきなよ」「君みたいに科学が好きな子がアメリカを良い国にするんだ」とツイート。ザッカーバーグ氏も「Facebookオフィスに遊びに来なよ」と投稿し、ツイッター社も「インターンにおいでよ」とツイートした。

ここまでは多くのメディアが報道したのだが、あまり届かなかった声もあった。それは、アーメド君と同じくらいの年の子どもたちの声だ。大人ばかりが騒いで、子どもたちの意見に耳を傾けたメディアはほとんど無かった。

というわけで、ぼくの会社が運営する教育系ポッドキャスト「EdSurge On Air」では、アメリカ各地の子どもにこの事件についてインタビューした。もちろん、ヤラセではない。以下抜粋:

弊社スタッフ:
「なぜこの件がこんなに炎上したんだと思いますか?」

14歳の男の子:
「アーメド君が、一切何も悪いことをしていないからだと思います。彼は自分の時間を使い、自分が作ってみたいものを作り、誇れるものができたから学校に持って行った。アーメド君はつまり、『やりたいこと』を見つけたことによって罰されたんです。これはニコラウス・コペルニクスやガリレオ・ガリレイが地動説を唱え、異端児扱いされたことに似ていると思います。」

子どもの声を聞こう。いまの子どもの声は、未来の大人の声になるから。

ほかにも、2015年にアメリカ最高裁で合憲とされた同性婚についてYoutubeで検索すると、動画のトップ3は「同性婚についての、子どもたちの意見」の動画である。

ヤラセかどうかは実際にあなたが見て判断してほしいが、ぼくにとっては非常に興味深かった。

パリのテロに関しては、Youtubeのドキュメンタリーメディア・VICEがISISへの潜入取材をしているのだが、その中でもISISの子どもが言っていたことが心に刺さった。

(5:40あたり)

記者「年はいくつ?」
子ども「9歳」
記者「なぜ戦うの?」
子ども「イスラム国のために」
記者「ラマダンの後はどこへ行くの?」
子ども「キャンプに行く」
記者「何をするの?」
子ども「訓練だよ」
記者「何の?」
子ども「ライフルの訓練」
記者「その後は?」
子ども「ライフルを持ってアメリカや異教徒と戦う」
記者「9歳だよね?撃ち方は分かるの?」
子ども「分かるよ」

いまの子どもの声は、未来の大人の声である。国際情勢には詳しくないが、これからも子どもの声には耳を傾けたいと思う。


人工知能

16 — アダプティブラーニングの向こう側

ぼくは教育×テクノロジーの分野で働いているのだが、この分野で人工知能に期待されているのは「アダプティブラーニング」だ。「アダプティブ (adaptive)」とは「順応する」という意味である。手短に説明すると、アダプティブラーニングは特殊なデジタル教材のことで、学習者の得意なこと・苦手なことを学び取り、学習者にとって最適な教材を自動で「おすすめ」してくれるものだ。

Amazonが「おすすめ商品」を表示してくれるように、たとえば子どもが「3桁-2桁=1桁の引き算が苦手」と分かったら、それを克服するための「おすすめ問題」を出題してくれるのがアダプティブラーニングである。あるいは、もし子どもが「百分率」で躓いているとしたら、割合の基礎をチェックする問題を出し、それがダメなら分数や小数の基礎をチェックする問題を出し、それもダメなら割り算の基礎をチェックする問題を出し…と、人工知能が自動で子どもの苦手の原因を追求したりもできる。

アナログ世界だと、これは「上手な先生」が得意とすることだが、人工知能によって同じことがデジタルでも可能になったのだ。

Dreamboxを利用している子どもの様子。画像ソースはこの動画。Dreamboxの教育者向けセミナー動画はこちら

教育のIT化が進んでいるアメリカでは、すでにアダプティブラーニング教材が学校で使われている。中学2年生までの算数・数学のアダプティブラーニング教材を提供するDreamboxは、2015年時点で150万人の生徒と7万5000人の先生が利用している

また2015年には、同じくアダプティブラーニング業界で先をゆく米Knewton社が、ベネッセ・ソフトバンクの合弁教育ベンチャーと日本展開のため提携したりしている

学習中の「理解度」ではなく、「気持ち」を認知する

アダプティブラーニングは次の10年間で大きな進歩を遂げるだろうが、ぼくは個人的に、「『学習中の理解度』ではなく、『学習中の気持ち』を認知する」人工知能に期待している。

2015年夏、ぼくはとあるプログラミングの入門記事を英語で書いたのだが、それが世界的なギークコミュニティーのHacker Newsで週間1位の記事になり、掲載後の24時間以内に世界中で約5万人に読んでもらった。

なぜバズったかは分からないが、入門記事を書く際、ぼくはできるだけ学習者の気持ちを代弁するようにしていた。「ここは面倒ですよね」とか、「ここは何か変ですよね」とか、「ここは複雑で、ここはシンプルですよね」とか。それの積み重ねが人気を呼んだのかもしれないとぼくは思っている。

ワイオミング州のスキーリゾートにて。

頭とからだで覚える」シリーズを考案した、伝説的なプログラミング教師、キャシー・シエラさんは、2015年に発売された著書で以下のように語っている(意訳)。

未経験者にとって、スノボーは初日が大変なスポーツです。ほとんどの人にとって、スノボーデビューの日は、何度も何度も転んで散々な一日になるでしょう。

では、なぜみんなスノボーを初日でやめないのでしょう?答えは簡単。友だちとかインストラクターが、「初日はみんな滑れないよ」「でも、明日は少し滑れるかもよ」と諭してくれるからです。

(プログラミングなど)難しいことを教える際には、まず「これは難しいんだよ」と言ってあげることが大切なのです。

ほとんどのWebサービス、アプリ、オンライン教材において、ユーザーは最初の数分で離脱してしまう。しかし、ユーザーが「このアプリ、解せぬ」などといった理由で離脱した場合、「初日なら、よく解らないのは当たり前だよ」と言ってくれる友だちがいれば、継続する人は増えるだろう。

ぼくは以前、シリコンバレーのQuora社でデザイナーをしていたが、ユーザーや学習者の気持ちに寄り添うことは、ぼくがUX(ユーザーエクスペリエンス)向上のために使うテクニックの中でも優先度が高い。

人工知能が「学習中の気持ち」を理解し、相応しい言葉をユーザーにかけてあげるような「アダプティブラーニング」が、近いうちに主流になるかもしれない。たとえば、学習者の行動データから、「この問題は難しいと感じるだろうな」と予測し、出題前に「次は難問です。ヒントを使ってもいいですよ」というメッセージを表示する。この程度なら、今の技術でもできるはずだ。

ソフトバンクも、感情を理解するロボット「Pepper」の一般販売を2015年に開始したばかりである。また、同じく2015年に「ネットの高校」の設立を発表した角川ドワンゴも、同社のサービス「ニコニコ動画」の目標を次のように掲げている

第一宣言 ニコニコは無機的な集合知ではなく人間のような感情を備えた集合知を目指します

(中略) 感情と人格を持ち、そして生命そのもののように変化し、流れていき、寿命をまっとうし、また、新しいものが生まれる。そういった集合知です。われわれの集合知は真実にむかって収束することを目指すものではなく、人間のパートナーとして共に苦しみや悩みも共有しつづけて永遠に完成することのない集合知です。そんな人間的な暖かさをもつ集合知が人間と共存するような未来のネット社会を目指します。

こういった路線の人工知能には、ぼくは大いに期待している。

(追記 2016/9/13: アダプティブラーニングについて新しい記事を書きました。こちらからどうぞ。)


ありがとうございました

友人が「シリコンバレーはオタクの芸能界」と言っていましたが、そんなシリコンバレーには舞台裏を公開する文化があります。ブログ・勉強会・講演・パネルディスカッション・オープンソースなどを通じ、業界全体の発展のため、各企業がノウハウを惜しみなく共有する文化です。

この記事に書いたことは、テレビに出たぼくの舞台裏です。誰かの役に立てばうれしいです。

追記: はてなブックマークなどに寄せられた、「この記事の前半部分は読む価値がない」というコメントについて

はい、全くもってその通りなのですが、前半を適当に流したのには理由があります。

アメリカではSnapchatという、遊び心たっぷりの写真・動画メッセージアプリが大流行していて、毎日1億人が利用し、現在の企業価値は1.5兆円を超えています。

25歳のビリオネア、Snapchat CEOのスピーゲル氏。スタンフォード大学在学中に起業。(画像ソース)

そんな絶好調なSnapchatの社長・スピーゲル氏(25歳)が、とあるインタビューで言ったことが、ぼく的に2015年で最も衝撃を受けた名言だったので、共有します。

In tech in particular, everyone is so serious all the time, and has these grand visions.

IT業界にいる人たちは常に真面目すぎるし、「志を高く持て」とか言いすぎだ。(意訳)

たしかに、ぼくは多くのシリコンバレーの起業家や投資家をツイッターでフォローしていますが、真面目なツイートがほとんどです。Snapchatはそんな意識の高いシリコンバレーではなく、エンタメの街・ロサンゼルスに本社を構えています。

Snapchatは2015年、友だち追加用のQRコードに自撮り写真を重ねたアイコンを作成できる機能をリリースしました。このアイコンを他のソーシャルメディアなどで使うことで、自分のSnapchatのアカウントを宣伝できるのです (上の画像をSnapchatでスキャンすると、ぼくを友だち追加できます)。この発想に当時は感銘を受けましたが、Snapchat社が真面目すぎないから生まれたアイデアなのでしょう。

ぼくも常に真面目すぎる人間なので、これからはもう少し適当なアウトプットを増やそうと思いました。2016年の目標は「志低く」。この記事の前半はその第一歩です。

最後に余談ですが、この記事に対し、

これにムカついた理由がようやくまとまった。話の枕に冗談を使ったことじゃない。NHKに誤解を与えるような冗談だから許せないんだ。こいつは仕事を一緒にした相手に対して敬意を払えないクズなんだ。

というご指摘がツイッターでありました。他にもそう感じられた方が多いかと思うので、ツイッターでのぼくの返事を掲載しておきます。

ご指摘ごもっともです。ぼくも自分はクズだと思っていますが、番組の担当ディレクターの方(名は伏せています)には公開前に確認を取りましたし (スクリーンショット)、またプロデューサーの丸山さんも以下のようなコメントを残して下さりました。

丸山プロデューサーの公開コメント:

上杉さん、ありがとうございます。今度は、いろいろと準備していただいたテーマで、また各論を、ぜひ。「ボケて!」この次は、ちゃんとカンペ出しますから(笑)。(スクリーンショット)

ぼくは以前、「テレビのようなオールド・メディアで働く人たちは、冗談が通じない人たちなんだろう」と思っていましたが、それは大きな間違いであり、そう思うこと自体、たいへん失礼なことだと痛感しました。

ソーシャルメディア

Twitterに投稿しました。

著名ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの投稿が多くリツイートされました。感謝です。

追記: 放映中・放映後の投稿など

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