上杉周作

進学校の中高生と、アメリカ大統領選ビンゴで遊んだ話 ~トランプ氏v.s.サンダース氏~

春休みがある3月には、たくさんの日本人学生さんがシリコンバレー・サンフランシスコを訪れます。3週間前にも大学生向けの研修ツアーがあり、ぼくも現地人としてセッションをさせていただきました。その内容を「あなたが知らないシリコンバレーの歴史」という記事にしたところ、2万人近い方が読んで下さりました。感謝です。

そして今週は、横浜の聖光学院の中高生がサンフランシスコを訪れてくださいました。今年の東大合格者数が全国6位の中高一貫・男子校で、ぼくの実家から徒歩15分のところにあります。ぼくは近所の立野小学校に通っていたのですが、塾通いもせず、中学受験など一切考えてなかったぼくは、聖光学院の名前すら知りませんでした。

聖光学院の子たちは昨年もシリコンバレーに来ており、当時行われた「アイデアソン」(即興ビジネスプランコンテスト)の様子がダイアモンド社の記事になっています。今年も同じくアイデアソンが行われ、ぼくもメンターの一人として呼ばれました。当日の様子はこんな感じ。

アメリカ大統領選について語ることに

さて、メンターをするだけだったら楽なのですが、アイデアソン開始の6時間前に、主催者の外村さんから「トリで30分ほど中高生の方々に話してほしい」と無茶振りをされてしまいました。「講演のネタも、準備する時間もないので、質疑応答セッションでもいいですか」と伝えたところ、「できれば何かひとつのテーマに絞って話してほしい」と言われたので、仕事をほっぽり出して超特急で準備をすることに。

ぼくは3年ちかく前に、大阪の高校生向けにアメリカの大学進学について話したのですが(講演のスライド)、これは1時間半の講演だったので流用できず。ぼくの他のブログ記事も読み返してみたのですが、どれも進学校の中高生に話せそうな内容の記事ではありませんでした。ましてや、ぼくの人生やキャリアについて話したとしても、長い一日の最後のセッションとなるので、トーク中に生徒たちが爆睡するのが目に見えます。

途方に暮れそうになったとき、日本では今年の参院選から選挙権年齢が18歳に引き下げられることを思い出しました。聖光学院から来てくれた学生さんたちには選挙権はないとはいえ、中高生に政治の話をするのはタイムリーで良いアイデアかもしれない。ただ、アメリカ在住のぼくが日本の国政の話をしても意味がないため、いま日本でも話題になっているアメリカ大統領選の話をすることにしました。

そして3~4時間かけて資料を作り、ギリギリ講演時間に間に合わせました。以下、ぼくのセッションの大まかな内容を説明していきますが、その前にひとつ補足を加えさせてもらいます。

補足

念のため、主催者の外村さんに「大統領選について可能な限り中立的に語りたいが、中高生相手に、ぼくの政治的信条が暗示されるかもしれない。それでも構わないか?」「とくに、このツアーに税金が使われていたら尚更まずいのでは?」と事前に確認したところ、「お好きに語っていただいて問題ないし、税金も使われていない」との返答がきました。

いちおう書いておくと、ぼくは今回の大統領選では民主党の候補者ふたり(ヒラリー・クリントン、バーニー・サンダースの両者)を支持しています。アメリカは民主党・共和党の二大政党制ですが、それぞれの主張や支持者層は多岐にわたります。すべての争点において「この候補者・この党の考え方に賛成する」ということは不可能ですし、よく耳にする「民主党=庶民層、共和党=富裕層」といった分類もナイーブすぎます。

あくまで、ぼくの立場は総合的に見ると「今回立候補した、民主党の候補者ふたりに近い」ということ。また二人のどちらかを選べと言われたら、賛同できない部分はありますが、サンダース氏を選びます。サンダース氏に対しては、ぼくは$27の寄付をしています。

余談ですが、

  • ぼくは大統領候補を評価する際、日本に対する外交姿勢を重要視していません。日本のネットにおいては、すでに落選した共和党・ルビオ氏の外交姿勢が高評価だったようですが。
  • アメリカと状況がまったく異なる日本の国政においては、ぼくは現在おおさか維新の会の支持者です。

講演で中高生に話した大まかな内容

(注: 講演で話す時間が無かった詳細部分も多く記載していますが、大枠に違いはありません。講演時間は約30分でした。)

中高生の皆さんがご存じのように、アメリカでは4年に一度の大統領選挙が行われています。アメリカの大統領は国家元首であり、行政の最高責任者であり、連邦軍の総指揮官でもあります。日本の天皇と総理大臣を合わせたような存在に近いかもしれません。大統領は議会をしのぐ力を持っているわけではありませんが、大統領が変わるとアメリカが進む方向が変わるのも事実です。

大統領選は間接選挙の形を取っていますが、事実上、国民が直接選ぶ仕組みです。今年の11月に投票が行われますが、現在は二大政党の民主党と共和党が予備選挙を行っていて、それぞれの党の候補者は7月までに決まります。

さて、皆さんは誰が今回の大統領選を戦っているかご存知ですか?

(この質問をしたところ、中高生からクリントン氏、トランプ氏、サンダース氏の名前があがりました。)

みなさんよくご存知ですね。今日は、候補者の中でも特にふたり、共和党のトランプ氏と民主党のサンダース氏をとりあげます。

トランプ氏とサンダース氏は立場の差こそあれ、どちらも既存の体制や政治家に失望している人たちが支持層です。つまり彼らに注目すれば、アメリカ人が「何に怒っているか」が浮き彫りになるというわけです。サンダース氏は現在かなりの劣勢、トランプ氏も共和党内で過半数を逃す可能性がありますが、一旦それは置いておき、あくまでアメリカ人の問題意識に注目しましょう。

大統領選ビンゴ

しかし、ただアメリカの大統領選や問題意識について語ってもつまらないので、今回はみなさんと「大統領選ビンゴ」なるものをやってみたいと思います。大統領選ビンゴとは何か説明する前に、すこし背景について語らせてください。

少なくともぼくが通ってきたアメリカの大学や職場においては、政治についての会話は日常茶飯事でした。ランチの話題が昨晩のスピーチやディベートの内容になることもしょっちゅうです。選挙戦はスポーツの試合とさして変わらない気がします。

ぼくは日本の大学に行ったことも、日本の職場で働いたこともありませんが、聞くところによると、日本では大学や職場での政治議論がそれほど盛んではないそうです。とはいえ、アメリカ大統領選の投票率は日本の国政選挙のそれと大差はないこと、また選挙費用が日本より遥かに高いことを考えれば、アメリカも手放しに褒められたものではありません。

さて、ぼくは2010年に新卒でPalantirというベンチャーにエンジニアとして入りました。ぼくが入社したとき、Palantirの評価額は1000億円弱でしたが、現在は評価額が約2兆円と大成功していて、ちまたでは「ユニコーン企業」と呼ばれています。

そのPalantirでとある日、無料の社食を食堂で食べていると、先輩のエンジニアから「オバマがスピーチをするぞ、こっちに来い!」と呼びだされました。するとテレビの前でエンジニア社員何人かがご飯を食べながら、ビンゴゲームのようなものをやっています。どうやら、オバマ氏が口にするであろうフレーズを予想し、それをビンゴカードの24マスに書き込み、実際にオバマ氏がそのフレーズを言ったらマスに印をつけ、先にビンゴを取るのを競い合うゲームのようでした。

その後知ったのですが、政治イベントでビンゴを楽しむというのはアメリカではよくある話のようです。CNNも、大統領選のディベート用にビンゴカードを作成できるページを設置しています。下の画像は民主党のディベート・ビンゴカードです。

こちらはThe Daily Beast誌が作成した、トランプ氏の暴言ビンゴ。彼が出演するスピーチやディベートに使えます。「レイピスト」「チャイナ」「メキシカン」などの言葉が並んでいますね。

大統領選ビンゴがどんなものか、なんとなくお分かりいただけたでしょうか。

というわけで今日は中高生の皆さんと、トランプ氏とサンダース氏のスピーチでビンゴをやってみたいと思います。皆さんにもわかるように、スピーチもビンゴも日本語化しましたのでご安心を。

ビンゴカード

こちらが今回用意したビンゴカードです。あらかじめA4紙に印刷して講演に何十枚も持って行きました。

ビンゴのルール

  • これから、トランプ氏のスピーチ動画と、サンダース氏のスピーチ動画を字幕付きで流します。
  • トランプ氏、サンダース氏のスピーチからそれぞれ「8つ」のシーンをお見せします。それぞれのシーンにキーワードとなる漢字が一文字ずつあります。その漢字を使ってビンゴをやります。
  • まずは、上記のビンゴカードの右にある漢字で全てのマスを埋めてみてください。真ん中のマスはボーナスです。
  • 漢字24文字のうち、8文字はトランプ氏のキーワード、8文字はサンダース氏のキーワード、8文字はダミーでスピーチには出てこない漢字です。
  • いちばん早くビンゴを取った方には景品を差し上げます。

ヒント: 先にトランプ氏のスピーチをやるので、漢字24文字のうち、「トランプ氏が言いそうな漢字」から順に埋めていったほうがいいでしょう。そのあとは「サンダース氏が言いそうな漢字」を埋めていってください。

漢字のリスト: 猫、欲、夢、囚、壁、銃、寒、勝、車、学、医、暖、蛇、麻、扉、軍、嘘、首、真、犬、愛、草、岩、富

ドナルド・トランプ氏のスピーチ (8文字)

ビンゴで視聴した動画はこちら。ぼくが翻訳し、日本語字幕を付けました。動画は約6分です。

オリジナルの動画はこちら(1時間)。3月19日にアリゾナ州で行われたスピーチで、ぼくがセッションをした前日に彼がアリゾナ州で勝利したので、この動画を使いました。

トランプ氏1文字目: 「犬」

解説: トランプ氏を阻止すべく、4年前に共和党の大統領候補だったロムニー氏が、数週間前にトランプ氏を大々的に批判しました。それに対しトランプ氏は、ロムニー氏がオバマ氏に敗北したことを徹底的に叩いています。

トランプ氏2文字目: 「壁」

解説: 専門家のコンセンサスは「予算はトランプ氏の試算の数倍以上になる」「メキシコが費用を払うわけがない」「そもそも壁を作っても意味が無い」とのこと。なぜ意味が無いかというと、メキシコからの不法移民の半数近くは「ビザを取得し合法的に入国 → ビザが切れても滞在」という方法を使っていたり、違法ドラッグもキャノン砲で壁を越えて打ち込まれたりするからだそうです。

トランプ氏3文字目: 「蛇」

解説: 彼がAl Wilsonの曲 “Snake” の歌詞を読み上げるシーンで、実際の講演では数分間続きます。余談ですが、トランプ氏の支持層は多岐にわたるものの、特に顕著なのは低学歴の支持者の多さ。よって、理性よりも感情に訴えるスピーチのほうが効くのかもしれません。トランプ氏は共和党から出馬していますが、『「民主党=庶民層、共和党=富裕層」といった分類はナイーブ』と先ほど書いた理由も、お分かり頂けたでしょうか。

トランプ氏4文字目: 「軍」

解説: 余談ですが、このスピーチの最中にもトランプ反対派と賛成派の暴力的な衝突が起きていました。

トランプ氏5文字目: 「嘘」

解説: 政治家発言の事実確認メディア・Politifactによると、執筆時点でトランプ氏の発言の75%以上は嘘だそうです

トランプ氏6文字目: 「愛」

解説: ビンゴをやっていた生徒からは「まさか『愛』をトランプ氏が言うとは」と驚かれました。いわゆる「ひっかけ問題」です。そう簡単にはビンゴさせませんよ。

トランプ氏7文字目: 「銃」

解説: このスピーチの3日後にブリュッセルでのテロが起きましたが、そのときもトランプ氏は、テロを彼の政治的立場に利用する発言をしました

トランプ氏8文字目: 「勝」

解説: トランプ氏の8文字目を終えた段階でビンゴを取った生徒はいませんでした。リーチをかけた生徒は数人いました。

バーニー・サンダース氏のスピーチ (8文字)

こちらも動画は6分ちょっとです。

オリジナルの動画はこちら(1時間半)。3月18日にユタ州で行われたスピーチで、ぼくがセッションをした前日に彼がユタ州で勝利したので、この動画を使いました。

サンダース氏1文字目: 「真」

解説: 動画では省きましたが、サンダース氏が「第一の真実」として発言したのは政治献金制度の腐敗についてです。企業や資産家などから無制限に資金を集めて活動できる「スーパーPAC」制度や、それを利用してウォール街から多額の資金を調達しているクリントン氏をサンダース氏は叩きまくっています。サンダース氏自身はスーパーPAC制度を一切使わず、幅広い支持層から資金を募っており、一口あたりの平均額はたったの$27だそう (ぼくの寄付額と同じ)。政治献金制度の腐敗について詳しくは、こちらの動画をご覧ください

ちなみに、初めてビンゴが出たのはこのタイミングで、しかもビンゴを取った生徒は5人いました。

サンダース氏2文字目: 「富」

解説: 「アメリカ人が、残業しまくる日本人より働いているなんてありえない」と思った方のために、実際にOECDのサイトから数字を取ってきてみましょう。すると、データ上はアメリカのほうが日本より労働時間が長いのです。

しかし、かといって「アメリカが先進国で労働時間は最長」と言うのは間違いです。ギリシャ、アイスランド、ポルトガル、イスラエル、アイルランドより短いのですから。ギリシャはなんと4位なのですが、OECDの統計学者によると、ギリシャは農業者と自営業者が多く、ゆえに労働時間が長くなるからだそう。

サンダース氏3文字目: 「囚」

解説: アメリカは民間刑務所・監獄ビジネスの先進国です。詳しくは、「肥大化する米国の『獄産複合体』 / 受刑者は安価で計算通りに働く労働力」という記事をご覧ください。

サンダース氏4文字目: 「麻」

解説: 身体へのリスクもそこまで大きくないマリファナ。合法化することにより犯罪組織の資金源を絶ち、税収を増やすのが目的です

サンダース氏5文字目: 「学」

解説: 今月、Yahoo! Japanも日本の奨学金問題について特集を組んでいましたが、アメリカは奨学金問題では遥か先を行っています。アメリカの学生ローンの全貸付額はなんと150兆円を突破し、現在も一秒に30万円のペースで増加中

サンダース氏6文字目: 「欲」

解説: この部分は、ぼくがサンダース氏を最も支持できないポイントです。正直うまくいく気がしません。

サンダース氏7文字目: 「暖」

解説: 共和党の前大統領・ブッシュ氏が、その前の民主党・クリントン氏時代に結ばれた「京都議定書」に反対したことが記憶に新しい方もいるでしょう。

金融業界の話とも重なりますが、サンダース氏は癒着問題を徹底的に叩く政治家で、それは一般人が頑張ってサンダース氏に寄付していて、しがらみが無いからできることです。ただ、本当に難しいのは大統領選挙だけでなく、その後の地方選挙や住民投票、上院・下院議員の選挙においてサンダース氏のような草の根運動を再現すること。それができなければ何も変わらないでしょう。

また、先月レオナルド・ディカプリオが、22年越し悲願のオスカー授賞式のスピーチで地球温暖化について訴えたことも中高生に話しました。

サンダース氏8文字目: 「医」

解説: アメリカの医療保険制度は悲惨です。詳しくは堤未果さんの著書「沈みゆく大国アメリカ」をお読みください。

おわりに

以上、いかがだったでしょうか? ぼくが「切り取った」箇所の良し悪しや、トランプ氏やサンダース氏の良し悪しはともかく、

政治家のスピーチでビンゴをやるのは意外と面白いかも

と思ってもらえれば嬉しいです。いわゆる「ゲーミフィケーション」ってやつですね。それでは最後に、もろもろ追記を載せておきます。

追記: 動画編集について

ぼくは3~4時間ほどでビンゴゲームのデザイン、そして上記の動画の翻訳・編集を終えました。大抵のクリエイティブ系のことなら作業速度では人に負けない自信があるぼくですが、それでもギリギリでした。翻訳については、動画をYoutubeの2倍速機能で聞き取りながら、同時通訳をやるように高速タイピングして翻訳しました。

動画編集についてですが、まずSoftorino Youtube Converterで動画をダウンロードし、編集にはScreenflowを使いました。簡単な字幕を入れるだけなら、Final CutやiMovieなどに比べて早くできます。キャプチャを画像で出す作業も、メニューの”Save Frame”にキーボードショートカットを割り当てれば楽です。

マイナスな点としては、Screenflowには漢字入力のバグがあり、バグレポートを提出したものの未だに直っていません。

こないだの記事「あなたが知らないシリコンバレーの歴史」の動画も、同じくScreenFlowで編集しています。

追記: ビンゴの景品

ぼくが読み終わった本を3冊持ってきて景品にしました。

  • そうだったのか!アメリカ / 池上彰 - アメリカについて詳しくない方に最もおすすめできる本です。たとえば、「アメリカの人口の9割が神の存在を信じている (2014年時点)」などの事実が初耳の方はぜひご一読を。
  • (株)貧困大国アメリカ / 堤未果 - 「貧困大国アメリカ」「沈みゆく大国アメリカ」シリーズは現在5冊出ていて、アメリカの格差社会の惨状が良く描かれています。「アメリカにいつか住んでみたい」と思う方は、5冊とも読んで考え直してみてください。内容がやや高度ですが、東大合格率トップ10の進学校に通う子たちなら理解できると判断しました。
  • アメリカの大学・ニッポンの大学 / 苅谷剛彦 - 日米の大学比較論としてはこれが最も分かりやすかったです。25年前に書かれた内容を新書化したものです。

追記: 講演中・講演後の写真

現地の日本語新聞にも載りました。

追記: ソーシャルメディア